『脳汁演出は悪趣味なのか?』配信ダイジェスト
2026/05/03 配信の「てまげむ」を掻い摘んだ、10分ほどで読めるダイジェストです。(2026/05/25に note より転載。)
【背景】『Enter the Gungeon』十周年のインタビュー記事 [1] が公開され、数日前の配信 [3] でも紹介していた。ヘッダー画像の背景は『Vampire Survivors』(poncle, 2022)。
脳汁演出の印象
◎めがぬ(以下め): 大井さんからのお題、『脳汁演出は悪趣味なのか?』ということですが――何ですか、これ。怖。
▧大井いちひと(以下大): まぁ、タイトルは決めかねてて、「悪趣味」なのか別の呼び方なのかは、曖昧にさせてください。とにかく、先日『Enter the Gungeon』(Dodge Roll, 2016. 以下『EtG』)十周年のインタビュー記事が Polygon から公開 [1] されて、 Game*Spark からも日本語での紹介記事 [2] が出ました。その中で『EtG』開発者が、『Vampire Survivors』(以下『VS』)や『Balatro』(LocalThunk, 2024)以降、スロットマシン由来の楽しさで集客する作品が増えてるんじゃないか、金儲け主義になっているように思う、という趣旨の発言をされました。
「特に『Vampire Survivors』と『Balatro』が成功してから、少し…いや、こんなことを言うのは気が引けるが、金儲け主義になってきているように思う。」と Crooks さん。「なぜなら、これらを面白くしている核は、『Rogue』的プレイ体験というよりスロットマシンのそれにかなり近いと思う。そして文字通り、スロットマシンの要件を満たすようにゲームを開発するほうがずっと簡単だ。セロトニンを操作する手法は――それがどの程度上手くいくか、金銭的に成功するかは様々だが――ゲーム開発者、特にゲーム・デザイナーがいつも用いているものだ。」([1] より。 [2] を参考に大井が翻訳。)
▧大: この「スロットマシン由来の楽しさ」――これを今回は「脳汁演出」と呼びますけど――問題を考えたり何か工夫したりとかではない、脳の別の回路で快楽を発生させるもの。これはどんなゲームにも大なり小なり含まれているとは思うんですけど、それが全面的に出てきた時、人によって感想が分かれそうだな、と思って…。個人的に言うと、僕はあんまり良くないんじゃないかな……って思ってるタイプなんですけど。お二人はどんな印象があるとか聞いてもいいですか?
❖がるべす(以下が): 脳汁演出って要は、脳の報酬系を刺激してドーパミン [^1] がドパドパ出て気持ちよくなるっていうことですよね。うーん、「悪趣味なのか?」っていうのはちょっとわかんないですけど、健全かどうかっていう点で言うと……僕は嫌いではないです。『VS』もプレイしてきて、宝箱で大当たり演出引いたときは気持ちよかったし、後半でビルドが上手く組めてすごい火力になるのも気持ちよかった。そういう気持ちよさはわかるので嫌いではないんですが、もし大井さんが危惧するような、これまで以上にドーパミンを出すことに特化したゲームが出た場合、自分が肯定的でいられるのかはわからない部分があります。――あ、ちなみに僕はパチンコもパチスロもやらないですし、ソシャゲのガチャも基本的にはやらないです。
◎め: 僕もいいですか?まず、脳汁演出とは何か?それは演出がどうのこうのと言うより、そこに行き着く過程が重要だと思うんですよ。つまり、簡単かどうか。めっちゃ苦労して乗り越えた先での演出は、多分いま大井さんが言ってる「脳汁演出」とは違いますよね?
▧大: 多分そうだとは思うんですけど、もう少し詳しく聞いても?
◎め: 例えば、ラスボスを頑張って倒した後に過度な演出があっても、そんなに忌避感は無いと思うんですよ。でも、ここでいう「脳汁演出」のゲームって、ぽちぽちボタン押してるだけで何かがジャラジャラ増えていく。それこそインクリメンタル・ゲームとかも含めると、なんとなく数字が増えていくゲームが思い浮かぶ。あとは、ガチャで過度な演出と共にレアキャラが低確率で出るとか。そういうのって、要は過程がすごい乏しい。で、簡単に満足感が得られることに対してゲーマーは忌避感を持っていると、僕は思うんですよ。「ゲームならある程度壁を越えなきゃ。」みたいな固定観念というか。
❖が: そうかなぁ…?
▧大: 多数意見な気はしますね。
◎め: だからこそ、そういうゲームに対して「こんなのゲームじゃない!」という考えになるのかな?とは思うんですが、僕の中でそういうゲームは全く悪趣味だと思わないし、「それはそういうジャンル」としか思わない。ただ、「じゃあ、そういうゲームばっかりになるのか?」と言うと、絶対そうはならないと思う。それで満足できない人が多いから。だから、ドーパミン出したい人だけやればいいし、「壁を超えてこそゲームだ。」と思う人は手を出さなければいいだけの話で、そもそも対象とする層が違う。つまり、「脳汁演出」は全員に向けられたものではないし、悪趣味でもないと思う。例えば、仕事から疲れて帰って気力も無く、簡単に気持ちよくなれるゲームをやっている人も当然いっぱい居る訳で。むしろ、少しはそういうゲームもあったほうが良いと思うし、それで溢れるということも無いと思う。なぜなら、昔からのゲームの歴史もあるし、多くのゲーマーは壁を欲しているから。
[^1]: インタビュー記事の「セロトニン」と本記事の「ドーパミン」で用語に揺らぎがある。厳密には、セロトニンとドーパミンの働きは異なるとされるが、本記事では「幸福感に関係する神経伝達物質全般」の意でそのまま記載した。 [7, 8, 9]
ゲームとギャンブルは別物?
❖が: 今のめがぬさんのお話を聞いて、「壁が無くて簡単なものはゲーマーにとってゲーム的でない」みたいな発想もわからなくはないんですが、僕は別にゲームじゃなくなってもいいと思うんですよね。それがゲーム的でなくても、面白くて必要とされるものなら、世の中に存在していい。……ただ、僕が危惧しているというか、言ってしまえば嫌いなものがあって、ドーパミンを餌にしてお金を使わせるもの、これはマジで良くないと思う。こればっかりは許せない。
◎め: ガチャってことですか?
❖が: そうですね。ガチャとかルートボックスで、コスメとかならまだマシかもしれないですけど、ゲームを有利にするためにガチャに誘導して、お金を使わせることでヒリつかせて、ドーパミンを出させる。そういうものをマネタイズの中心に据えてるゲームは、悪趣味というか健全でないし、考え方が古いかも知れないですけど自分は触りたくない。ま、我慢できずに触っちゃうこともあるんですけど。
▧大: 僕も割と近い意見。ギャンブルとほぼ等しい、賭博的なハマり方をしてしまうんでないかな?という気がしていて。そういうものに人はハマりやすいっていうのは大昔から、それこそ江戸時代のそういう話とかいくらでもあるわけだし、それは良くないから止めようっていう前提が形成されてきたと思うんですよ。それで、国によってはギャンブルを制限している。(まぁ、お金の流れとか色々絡む話なので単純化できないとは思いますが。)そうやって、人が抗えない危険性がある以上、外部からの強制力をもって制限したほうが良いという風になってきた。で、これはゲームにおいても念頭に置いたほうがいいんじゃないかなーと思うんですよね。ハマり方として、かなり近しいものに見えるから。
◎め: うーん……今回のテーマとギャンブルは、また別の問題かなって思うんですよね。それは演出がどうとかじゃなく、お金を賭けてるからでしょ。
▧大: えー、どうなんだ?それは完全に分けて考えられる話なんですかね?
◎め: そりゃ、脳汁演出で釣ってスロットを回させるっていうのは、もちろん有るんでしょうけど。金を賭けるのは、また別物な気がするなぁ。
不健全じゃない条件?
▧大: もう一個、気になってたことがあって。さっきのめがぬさんの話で、「たとえ脳汁演出だとしても過程があればみんな納得する。」「演出のケバケバしさよりも過程の有無が基準で、壁がないゲームは眉をひそめられる。」と。
◎め: うん。やっぱり、「簡単に」気持ちよくなるかどうかが大事なんだと思いますよ。別に気持ちよくなること自体が悪いわけじゃないから。
▧大: 一方で、僕は別に何かを乗り越えることをゲームに強くは求めてないんですよ。だから、この基準については「乗り越えたかどうか」よりも適当な表現がある気がして。
◎め: 「乗り越える」って言うと大げさですけど、「学習」でも良いんじゃないですか?ポチポチしてるだけだとあんまり学んでる感じがないし、過程として学習が欲しいじゃないですか。
▧大: うーん、もう少し広く取るなら――カイヨワの『遊びと人間』 [^2] では人間の遊びには四種類あるとしていて、(1)ひとつが学習というか 競争、(2)もうひとつが 演じること、ロールプレイすること、(3)さらに 目眩 というのがあって、(これはジェットコースターに乗ったりクルクル回って遊んだりを指すらしいですが、ちょっと実感湧きにくいかも。)(4)最後が 運、ギャンブルなんですよ。 [^3] [^4]
▧大: この四分類で考えるなら、いまの「不健全じゃないゲーム」には 学習・競争 だけじゃなく 演じるとかロールプレイ も入れてほしいな、と思った。その場合、眉をひそめられがちなゲームっていうのは、4つ目の 運・ギャンブル しかないってことになるかな。
◎め: うーん、〔運要素の中でも〕ギャンブルだけは別の話な気がしちゃうんですよね……我ながら、なんでかなぁ。
▧大: ここで言うギャンブルを、お金を介したものに限るのか、単純に自らの手を離れたサイコロがすべてみたいなもの全般を含めるのか、自信はないです。でも、お金が極端に増えたり減ったりする場合に関わらず、確率だけ、ある意味インタラクションが無いものというのは、ゲームから片足外れちゃってるんじゃないかな?っていう印象がある。いま自分が極端な話をしている自覚はありますけど。
◎め: いや、僕はそうは思わないかな。それこそテーブルトーク RPG なんてダイス振りまくるし、確率に身を委ねるのもゲームの内だし。
▧大: うんうん。僕が『XCOM』で命中率 50 % 当てて「よっしゃ!」ってなるのも、多分近い快楽だとは思います。
◎め: 運要素自体はゲームの範疇だと思うから、僕はリアルマネーを使わないガチャであれば別に何とも思わないし、好き。リアルマネーを使うのであれば、「ま、健全ではないよね。」という。だからやっぱり、僕の中ではお金の有る無しで違う。
[^2]: 本配信では誤ってホイジンガと紹介しているが、正しくはカイヨワ。(00:32:16 ごろ。)
[^3]: [11] p. 44 より「すなわち遊びにおいては、競争か、偶然か、模擬か、眩暈か、そのいずれかの役割が優位を占めているのである。私はそれを、それぞれアゴン〔Agôn ギリシア語、試合、競技〕、アレア〔Alea ラテン語、さいこと、賭け〕、ミミクリ〔Mimicry 英語、真似、模倣、擬態〕、イリンクス〔Ilinx ギリシア語、渦巻〕と名づける。」
[^4]: カイヨワは遊びの四分類と直交する別軸に、遊ぶ態度の両極としてルドゥス〔Ludus ラテン語、闘技、試合。規則的で根気を要する。〕とパイディア〔Paidia ギリシア語、遊戯。無秩序で移り気。〕を置いた(同 p. 44)。これは『ホモ・ルーデンス』(J. Huizinga, 1938)が土台になっている。本配信では触れられなかったが、めがぬの「乗り越える」は、ゲームの特徴というより、プレイヤーの態度としてのルドゥスに相当するかも。
やがては脳汁演出ばかりになる?
▧大: 〔インタビューにおける「スロットマシン」発言の意図を念頭に置きつつ、〕各々の開発者が本当はどう思っているか、ここで詮索しても仕方がない気はしていて。あとは、どうなってくれたほうが僕らは嬉しいか、ですよね。そういう意味で僕は、脳汁演出は増えなくてもいいかなって思っちゃうし、実際には最近増えてるな、とも思ってる。
❖が: うん。
◎め: よく知らないですけど、やっぱりサバイバーライクって作りやすいと思うんですよ。こんだけメチャクチャ増えてるってことは。 SteamDB とか見てても、全ジャンルの中でサバイバーライクが明らかに・圧倒的に多いんですよ。でも、そういうゲームはほとんどが売れてないと思う。それに、これは勝手に思ってるだけですけど、その開発者も別にサバイバーライクをずっと作りたくて作ってるんじゃなくて、とりあえず一本作ってみようと思ってサバイバーライク作ってるところが多い……と思いたい。
▧大: あるいは大手でも、有名シリーズの続編を出すまでの繋ぎとしてサバイバーライクにスピンオフしたものを出すっていうのは、最近でも複数見かけますよね。
◎め: 僕自身は別にサバイバーライク好きでもないから、個人的には増えないほうがありがたいとは思うんですけど、ま、ほっといても増えることはないんじゃないかな、と思ってますね。
▧大: え、増えてるんじゃないんですか?
◎め: いや、すごい増えてはいるんですけど、本当にちゃんと作り込んだサバイバーライクって意外と少ないし、結局はサバイバーライク以外のジャンルのものが主に売れてる。だから現状はそんなに気にしてない。これが大手もこぞって作りだしたら、「それはちょっとやめてくれ。」ってなるけど。現状のバランスがちょうど良いんじゃないかな。
▧大: わかんないですよ?大手だから開発期間がめっちゃかかってるだけで、5年後とかに一気に来るかも知れませんよ。
◎め: (笑)ま、どっちかって言うと、お手軽に作れるからとりあえず作っとこう枠だと思いますけどね。
▧大: あと、これは気にしすぎだって言われそうな気はしますけど、ゲーマー側も持ち上げすぎたというか、盛り上げすぎたんじゃないかな?って思う時がある。
❖が: そうですかね?
◎め: サバイバーライクが持て囃されすぎたってことですか?
▧大: サバイバーライクというより、脳汁演出を無批判にみんなで「最高!」と言い過ぎたんじゃないかな?って。
◎め: そもそもスロットとかガチャの演出が日本人には馴染み深かった訳じゃないですか。だから、サバイバーライク然り、脳汁演出が受け入れられやすい土壌が日本にできてたのかな、とは思いますね。サバイバーライクが世界でどうだったのかは知らないですけど。
▧大: 『VS』についてはむしろ海外の方が、オンラインカジノが合法の国もあるし、日本のガチャ文化とは別のところで既視感があったとは思う。
◎め: だからやっぱり、みんなああいうのが好きなんですよ、元から。
▧大: あとは、今回「悪趣味」と書いたように、そういった「下世話でアングラな感じが良いよね。」みたいな盛り上げ方をしちゃってないかな。
◎め: それはあるかも。
▧大: 悪いコトしてる感?ちょいワル?いい表現が思いつかないけど。
◎め: どれも古いなー、なんか。(笑)
配信本編
この話のつづき、配信本編はこちら。
出典
- G. Colantonio, “Enter the Gungeon’s creators reflect on the roguelike genre’s existential crisis,” Polygon, Apr. 20, 2026. https://www.polygon.com/enter-the-gungeon-10-year-anniversary/ (accessed May 05, 2026).
- kamenoko, “『Enter The Gungeon』開発者、現在のローグライクはスロットマシンに近づいていると主張。過去10年で激変してしまった,” Game*Spark, Apr. 28, 2026. https://www.gamespark.jp/article/2026/04/28/165813.html (accessed May 05, 2026).
- めがぬ, "【ゲーム雑談】「獣道」でウメハラ選手とMenaRD選手が激闘:今週のニュースで語ろうゲームの会【にゅーげむ】," YouTube, Apr. 30, 2026. https://www.youtube.com/watch?v=AtRWiMYLEKg (accessed May 05, 2026).
- “poncle Games,” Beacons, 2026. https://beacons.ai/poncle (accessed May 05, 2026).
- “Enter the Gungeon,” 2026. https://www.enterthegungeon.com/ (accessed May 05, 2026).
- “Balatro: Deck-Building Roguelite,” 2026. https://www.playbalatro.com/ (accessed May 05, 2026).
- “Here’s what dopamine, the ‘happy hormone,’ actually does,” National Geographic, 2025. https://www.nationalgeographic.com/science/article/science-behind-dopamine-function (accessed May 06, 2026).
- Nikkei Inc, “「ドーパミン=快楽」ではない? ネットやSNSで誤解も - 日本経済新聞,” 日本経済新聞, Mar. 23, 2025. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG1182M0R10C25A3000000/ (accessed May 06, 2026).([7] の日本語訳、転載記事。)
- アリナミン製薬, “ドーパミンとは?効果や自然な出し方を知ってやる気・集中力アップにつなげよう,” Alinamin, Feb. 25, 2026. https://alinamin.jp/tired/dopamine.html (accessed May 06, 2026).
- H. Furukawa, “レーティング機関PEGIが‘運営型ゲーム’系のルール強化へ。「ガチャありゲームは16歳以上」「デイリークエストは7歳以上」など細かく定める,” AUTOMATON, Mar. 13, 2026. https://automaton-media.com/articles/newsjp/pegi-20260313-428930/ (accessed May 06, 2026).
- R. Caillois 著, 多田道太郎・塚崎幹夫訳, 遊びと人間, 講談社, 1990. https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000150521 (accessed May 06, 2026).
- "Upcoming Steam Releases," SteamDB. https://steamdb.info/upcoming/ (accessed May 06, 2026).
- "一騎当千式シューティング" (検索フィルタに「サブジャンル:ローグライト」を指定し、最新作を表示。), Steam. https://store.steampowered.com/category/shmup?facets13268=2%3A14%2C10%3A10%2C13%3A2&flavor=all_released (accessed May 06, 2026).
- 洋ナシ, “【今月の流行りゲー】この中毒性はカジノゲーム開発経験が活きている⁉ ピークプレイヤー数5万にのぼる低価格ローグライト『Vampire Survivors』,” IGN Japan, Feb. 04, 2022. https://jp.ign.com/vampire-survivors/57535/preview/5vampire-suvivors (accessed May 06, 2026).
参考用に YouTube の自動文字起こし機能を使用していますが、それ以外の要約・編集には生成 AI を使用していません。




